GPSサイコンの雄、ガーミンの「Edge 520 Plus」購入

ガーミンのサイクル・コンピューター「Edge 520 Plus」。日本未発売モデル。現在は最新型「Edge 530」に代替わりしている。(撮影=bg)

アナログから「サイクル・コンピューター」へ

自転車に初めてメーターを付けたのは小学生の頃。日本独自の「少年用スポーツ自転車」なるものを愛車にしていた時だったと記憶している。リトラクタブルのヘッドランプやトップチューブのシフトノブ、そして電飾でキラキラさせた、今日からすれば悪趣味以外の何ものでもない当時流行った“デコチャリ”には、アナログの針が速度を示すスピードメーターが備わっていた。

30年以上の時を経て、技術は長足の進歩を遂げていた。速度はもちろん、クランクの回転数たる「ケイデンス」、走行距離や平均速度など基礎的な情報から、心拍数やパワーといった身体的数値、さらにナビゲーションや斜度などの地理情報を提供してくれるまでになり、もはやメーターではなく、頭脳を持ち合わせた「サイクル・コンピューター(サイコン)」と呼ぶべきものに進化していた。

何よりオールドバイカーとして感心させられるのが、物理的なワイヤーを使わない無線化が進んだこと。BluetoothやANT+といった規格により、センサーと機器を結ぶ配線から解放されたことで、ロードバイクに取り付けやすくなった。そしてなかでも、以前は高価なカーナビでしか使えなかった「GPS」の普及には、隔世の感を禁じ得なかった。

GPS時代を先取りした企業、ガーミン

人工衛星を使い現在位置を測定するGPS=Global Positioning System(全地球測位システム)が、インターネットと同じ様に、軍事目的で開発されてきたことは有名な話。1963年、アメリカ空軍がまとめた航法衛星システムがGPSのルーツとされ、米ソ対立という冷戦の後押しにより研究開発が進められていった経緯がある(内閣府宇宙開発戦略推進事務局「みちびき(準天頂衛星システム)」航法の歴史(3)GPSの登場)。

第1世代のGPS衛星「ナブスター・ブロックI」の打ち上げがスタートしたのは1978年2月。以降、10機という限られた衛星で実験的な運用を続けてきたこの測位システムは、1989年に最初の実用衛星というべき第2世代衛星「ナブスター・ブロックII」を放つと、測位できる時間も長くなり、徐々に実用性を増すことになった。

こうした実用性の向上により、軍事目的とは別に、GPSを民間で活用するという機運が少しずつ高まってきていた。「道は星に聞く。」のコピーで一世を風靡した「パイオニア・カロッツェリアAVIC-1」の発売は1990年。世界初といわれる市販GPSナビゲーションの誕生は、まさに先駆的な企業であったパイオニアにより実現した(パイオニア公式サイト「CARNAVIGATION HISTORY 1990-2019」)。

そんなGPS時代の潮目を敏感に察知していたのが、電気技師であったアメリカ人ゲイリー・バレル(Gary Burrell)と、台湾生まれの電気工学博士、ミン・H・カオ(Min H. Kao)。アメリカ国防総省のプロジェクトに取り組みながら、まだ極秘だった衛星測位技術に接していた2人が手を組み、1989年に興した企業が、GaryとMinの名前を合わせた「Garmin(ガーミン)」だった(ガーミン公式サイト「Garmin について」)。

ガーミン社による企業紹介動画。「ガーミンといえばカーナビゲーションと思うかもしれないけど、人々が過ごし、働き、遊ぶ様々な場所に我々ガーミンはあります」

日本未発売の「Edge 520 Plus」購入

GPSの民間利用を先取りしたガーミンは、その後30年にわたり中核の測位技術を航空、海洋、自動車といった各産業で展開。その名はフィットネスやアウトドアでも知られるようになり、ランニング、ゴルフ、登山、そしてもちろん、サイコンのリーディングメーカーとしても不動の地位を確立した。また、ガーミンとともにGPS時代を切り拓いたパイオニアも、サイコンやペダリングモニター、パワーメーターといったサイクルスポーツ事業を手がけていた(パイオニアは2020年3月末をもって、同事業をシマノに譲渡するかたちで撤退している)。

ガーミンとの個人的な付き合いは、2000年代初頭まで遡ることができる。同社のアウトドア用「eTrex Vista (イートレックス・ビスタ)」を、登山などのルートを記録するデータロガーとして活用していたのだ。

その流れから、「FELT F75」にもガーミンを、と思っていたが、“先客”としてフィンランド・スント社のGPSウォッチ「AMBIT3 PEAK」があり、しばらくはスント+心拍ベルト+ケイデンスセンサーという組み合わせで様子を見ていた(コンパスメーカーとして創業したスントのプロダクトは、20年以上の愛用品であった)。

2019年の夏、ガーミンとの再会の機会が不意に訪れた。海外通販サイトのルーティンチェック中に見つけた「Edge 520 Plus」を購入したのだ。

ガーミンのサイコン「Edge」は、大画面かつ高性能の「1000系」を頂点に、コンパクトなフラッグシップ「800系」、スタンダードな「500系」、エントリーモデル「100系」に大別される。今回手に入れた「520 Plus」は日本未発売モデル。新型「530」デビューの前後というタイミングだったからか、為替の都合からか、クーポンなしで日本円にして2万円という破格のプライスに思わずボタンを押してしまったわけである。

「OSM」地図データをアップロードして日本仕様に

スペインをベースとする通販サイト「Bikeinn」から届いたEdge 520 Plusを箱から取り出す。49 x 73 x 21 mmという手のひらサイズの本体に、2.3インチのカラーディスプレイが備わる。上位の800シリーズはタッチパネルだが、500シリーズはボタンでの操作となり、個人的にはこちらの方がしっくりとくる。

機能面は、スピード、ケイデンス、心拍数、消費カロリーなどに加え、パワーメーターと組み合わせれば、機能閾値パワーことFTP(Functional Threshold Power)といった高度な計測も可能。1時間フルパワーで出し切るFTP計測など、中年ホビーライダーには宝の持ち腐れ感が否めないが、必要にして十分な性能を持ち合わせていることに変わりはない。

GPSのガーミンということもあり、ナビゲーション機能も自慢のひとつだ。海外通販を利用したゆえ、標準搭載される地図は欧州がメインなものの、オープンデータで地図情報をつくる「OpenStreetMap(OSM)」というありがたいプロジェクトから、日本地図をダウン&アップロードすることで問題解消。詳しい方法はネット上で諸氏が解説してくれているため、迷うことなく日本仕様に近づけることができた。

欧州仕様の地図しか入っていないため、日本地図を「Edge 520 Plus」にアップロード。こうすれば国内でもナビゲーション機能が問題なく使える。(撮影=bg)

欧州仕様の地図しか入っていないため、日本地図を「Edge 520 Plus」にアップロード。こうすれば国内でもナビゲーション機能が問題なく使える。(撮影=bg)

ガーミンは、一人前に近づくための“神器”

2.3インチのカラーディスプレイには、スピードやケイデンス、走行距離などの情報が並べられ、表示されない数値も、左側面の上下ボタンでスクロールさせ参照することができる。ガーミンが用意する「Connect IQ」から気に入った表示レイアウトを選ぶことも可能。(撮影=bg)

2.3インチのカラーディスプレイには、スピードやケイデンス、走行距離などの情報が並べられ、表示されない数値も、左側面の上下ボタンでスクロールさせ参照することができる。ガーミンが用意する「Connect IQ」から気に入った表示レイアウトを選ぶことも可能。(撮影=bg)

いざ走り出してみると、画面に表示される様々な数字に誰もが引きつけらることだろう。

心拍ベルトと、ケイデンスも測ってくれるパワーメーター(4iiii)をペアリングさせると、心臓が悲鳴を上げていることも、さしたるパワーを出していないことも一目瞭然。「ちょっと苦しい」とか「この前より速く走れない」といった、自身の身体的な状態が、客観視できる数値となって刻一刻と表示されるのは新鮮な経験。サイコンとは、己を知る“鏡”なのである。

スピードは、物理的なセンサー経由ではなく、GPSを使っての計測とした。衛星と通信できないトンネルでは測れないが、そのほかでは大きな遅延なくスムーズに速さ(“遅さ”といった方がいい)を示してくれるから安心だ。

「Garmin Connect」という機能で、スマホのアプリやPC経由での接続も可能。あらかじめコースを設定すれば、「ターンバイターン」でナビゲーションしてくれて便利である。またスマホとの併用で、強い衝撃を受けた際に緊急連絡が自動的に飛ぶ、なんていう頼もしい機能もある。

近所のタマサイ(多摩川サイクリングロード)などでは、ガーミン独特の電子ビープ音をよく耳にする。「Wahoo(ワフー)」「Lezyne(レザイン)」といった新興メーカーの出現にも、老舗の貫禄は揺るがない。ガーミンは、ロードバイク乗りとして一人前に近づくための“神器”のようなものなのだと思う。

あの魔法の電子音を聞けば、自らの貧脚ぶりを忘れ、一端の気分でペダルを漕ぐことができる。気持ちは格段に上がった。さて次は、自らのパフォーマンスの向上である……。■bg

登山をかじっていた2000年代初頭に使っていた「eTrex Vista (イートレックス・ビスタ)」(左)と「Edge 520 Plus」(右)の邂逅。GPSの雄、ガーミンとの付き合いは、趣味を変えてからも続いていく。(撮影=bg)

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1974年生まれ。都下在住。生きるということは「世界の解釈」、そのひとをそのひとたらしめるのは、その「世界の切り取り方」にあると思います。

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