嗚呼、憧れのカンパニョーロ〜FELT F75に「ゾンダ」を履かせる〜
“尿瓶”の思い出
「ロードマン・コルモF4」のサドルに跨っては多摩川を走り、明けても暮れても自転車のことしか考えてなかった子供の頃。貪るように読み漁った自転車本や雑誌で目にした「カンパニョーロ」というエキゾティックな名前に、少年は憧れを抱くようになった。
カンパニョーロのみならず、イタリア発祥のブランドはどれも官能的にして情緒的な魅力をたたえている。フェラーリ、ランボルギーニ、アルファ・ロメオ、マセラティといった自動車メーカー然り。また自転車においても、現存する最古の自転車ブランドであるビアンキもあれば、ファッションを中心とした巨大コングロマリット、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の傘下に入るピナレロ、あるいはデローザ、チネリ、コルナゴと、そうしたイメージを抱かせるメーカーは枚挙にいとまがない。
我が心のなかでも孤高の存在として君臨していたカンパだったが、そのパーツはどれも高く、とても子供が手を出せるシロモノではなかった。雑誌を見てため息をつく息子を不憫に思ったか、ある日父親がヨーロッパ出張の土産にと「エアロボトル」を買ってきてくれた。まるで尿瓶のようなフォルムをしており、「ま、カンパ“ニョウ”ロっていうぐらいだし」などと言ったか言わなかったか定かではないが、とにかくマイ・ファースト・カンパである白いエアロボトルがロードマンに装着され、少年の心には大きな喜びと小さな誇りが宿ったのだった。
定番アルミホイール「ゾンダ」を選ぶ
そんな憧れのカンパニョーロに、多少はおカネに自由がきく身分になって再会を果たした。2018年の暮れのことだった。
エンジンが人間である以上、乗り手の身体的パフォーマンスを上げないと速くも遠くにも走れないのが自転車という乗り物。ただ、走りを向上させるパーツというものはあり、それはすなわち、部品のなかでいちばん大きな回転体となる「ホイール」と、路面を蹴って進もうとする「タイヤ」であるというのは、自転車界の定説である。
そんな定説に従い選んだのが、初心者がステップアップするには最適との評判のアルミホイール&タイヤ、「カンパニョーロ・ゾンダ 」と「コンチネンタルGRAND PRIX」。どちらも名の知れた定番パーツだ。
購入に際して、海外通販サイトを日々巡回し値動きをチェック。ゾンダは高いモデルでもないが、安いにこしたことはない。多くのサイトではセールや割引クーポンの発行をこまめに実施しているもので、プライスの“谷”を見計らってボタンをクリックすれば懐に優しい買い物ができる。
今回はイギリスの通販サイト「ProBikeKit」で初回限定10%オフクーポン(6500円以上の購入で最大3500円引き)を使った。
- Campagnolo(カンパニョーロ)・Zonda(ゾンダ)・C17 クリンチャーホイールセット-ブラック – Shimano/SRAM 3万6603円
- CONTINENTAL GRAND PRIX 4000S II クリンチャー ロード用タイヤ – 2本セット – 700c x 25mm 7080円
しめて4万3683円也(7500円以上なので送料無料)。オランダから空路で運ばれてきたクリスマスプレゼント、手元に届くまでの2週間ですっかり首が伸びてしまった。
「FELT F75」に装着
通販を利用したということは、自分で交換をするということを意味していた。タイヤ交換には「タイヤレバー」、またスプロケットを付け替えるには「スプロケット取り付け/取り外しセット」、さらに「グリス」を別途用意。このご時世、タイヤにしろスプロケットにしろ、交換方法は動画で教えてくれるから便利だ。
ついにカンパが、ゾンダが、我が愛車「FELT F75」に装着された。ようやく手に入れた憧れのブランドに感慨もひとしおというものであった。
ゾンダは前輪と後輪が非対称で、スポークは前16/後ろ21本。特に3本のスポークが平行線を描いて伸びるリアの「G3組」は見た目も美しく、オーナー冥利に尽きる。またリムの高さも前24/後ろ27mmと異なる。いずれも高すぎず、横からの風に敏感な「ディープ」(リムハイト60mm前後)でもないから扱いやすい。加えて、スポークホールがないのでリムテープがいらないというのも地味ながら加点要素と言えるだろう。
「ゾンダ」と「コンチネンタルGRAND PRIX」の印象
一般に、よいホイールの条件は、
- 剛性が高い
- 空気抵抗が小さい
- 慣性重量が少ない(軽い)
- ハブ(車輪の中心部)の回転が滑らかで機械的損失が少ない
の4点が挙げられるという(『アラフォーからのロードバイク 初心者以上マニア未満の<マル秘>自転車講座』SBクリエイティブ刊)。前後で1596gのゾンダは特段軽いというわけでもなく、どのポイントも“そこそこ”ながら、各要素のバランスがよく、しかも安いというのがこのホイールが支持される所以であろう。加えて個人的には「ハブが気持ちよく回り進みがいい」ところが好印象。あの独特のラチェット音が耳に心地よく入ってくると「やっぱりカンパはいいじゃないの」と悦に入る自分がいる。
いわゆる純正の“鉄下駄ホイール”と比べ、ぐっとマイルドになった乗り味は、おそらくタイヤによるところが大きい。純正ホイールでは「23C」、つまりタイヤ幅が23mmだった。ゾンダは、昨今の時流にならい2mm増の「25C」からの対応となるため、充填される空気も増えて一般的に乗り心地はよくなる。これにタイヤの性質や空気圧といった要因が加わり、快適さが増したのではないかと思われる。
コンチネンタルのタイヤは、最初「GRAND PRIX 4000S II」を購入するも、その後しばらくしてリニューアルされたので、すかさず新型の「GRAND PRIX 5000」に換装。4000ではパリッと乾いた感じがしたが、5000になるとしっとり、モチっとした感覚に。路面をしっかり掴んでくれている安心感があるタイヤで気に入っている。
「クイック・リリース」元祖の誇り
カンパニョーロの創設者でありレーシング・サイクリストだったトゥーリョ・カンパニョーロ(TULLIO CAMPAGNOLO/1901年-1983年)は、工具なしでホイールの脱着が可能となる、ロードバイク乗りなら誰もが知っている「クイック・リリース」を発明した人物だ。
1927年11月11日のレース中のこと、イタリアのクローチェ・ダウネ峠(Croce d’Aune)に差しかかったトゥーリョは、峠向けにギアを変えようとホイールを外そうとしたが、寒さで手がかじかんでうまくナットが外せず、ライバルに敗北を喫したというエピソードが残っている。当時はハブの両側に「上り用」「下り&平地用」の2種類のギアを備えた「ダブルコグ」だったため、ギアを変えるためにホイールを取り外す必要があったのだ。
この苦い経験を踏まえ編み出されたのがクイック・リリースである。トゥーリョは1930年にこの仕組みの特許を取得し、1933年には自身の名を冠した会社を立ち上げて製造をスタートさせた(カンパニョーロ公式サイトより)。
こうした誕生にまつわる「物語」が、いま自らの手元にあるプロダクトにも息づいていると感じさせることが、そのブランドを唯一無二の存在にたらしめる。ゾンダのハブに描かれた、クリック・リリースのレバーをモチーフとしたカンパのロゴ。そこから発せられるある種の情緒的なメッセージに、心躍らないはずはないだろう。
走ってもよし、見入ってもよし、その歴史に想いを馳せるのもまたよし。自転車に乗るのがいっそう楽しくなったのは言うまでもない。■bg
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FRAME カンパニョーロの「ZONDA(ゾンダ)」が2本めのホイールとして人気の理由
Campagnolo Official Milestones