ある夏の北欧探訪〜ノルウェーの森、ではなく、水〜
ノルウェーといえば?
だいぶ旧聞に属する話なのだけど、ある年の夏、ノルウェーを旅してまわった。スカンジナビア半島の北欧3国のいちばん西側で北大西洋に面しており、国土の広さは日本とほぼ同じながら、人口は526万程度と日本の4割強の王国である。
北欧といえば、ムーミンはフィンランド、ボルボはスウェーデン、さてノルウェーは……パッと思いつくのは『ノルウェイの森』ぐらいか。意外と地味な印象が否めないものの、かの『叫び』で有名なエドヴァルド・ムンクや、組曲『ペール・ギュント』で知られるエドヴァルド・グリーグを輩出した、誉れ高き国である。つまり、ちょっと、やっぱり、地味なのだ。
南部に位置する首都オスロは近隣国屈指の大都市というけどそんな派手さはなく、高層の建物よりも、どちらかというと街を囲む山並みの方が目立っている。実際、冬になれば仕事終わりに(!?)周囲の山でスキーを楽しむ人もいる、と、至近に自然があることをうかがわせる話を現地で耳にした。
いざ街を抜けても、代わり映えのない森が延々と続くことになるのだが、とはいえ、新たな発見がなかったわけではない。ノルウェー海側に進路を取り、第2の都市ベルゲンまでの道すがら、バスの車窓から景色を眺めながらある自然物の多さに驚いた。「水」だ。
この辺り、暖流の影響で北緯60度と高緯度地域でありながら比較的温暖であり、特にベルゲン周辺は湿った空気が山にぶつかることで、年間平均降水量は2250mmと東京の1528mmを上回るほど。地に落ちた雨は、氷河がU字型に削り取ったフィヨルドの断崖絶壁を落下し海に流れ込んでいる。ただでさえ壮大な、しかしどことなく牧歌的でもある渓谷の景色に、瀑布としての水がアクセントをつけていた。
港が凍らない上、好漁場が近くにあるということで水産業も盛んで、かの地で獲れたサーモンは遠く日本でも流通している。北海油田の開発以来、石油やガスなどの輸出がノルウェー経済の屋台骨となっている一方で、電力のほとんどは水力発電でまかなわれているというから、水はこの国を支える立派な天然資源である。
四方を海で囲まれている日本では馴染みが薄いかもしれないが、世界には水を巡って紛争が起こっている地域もあり、例えばシンガポールとマレーシアによる水供給停止問題などはよく知られているところ。また2050年には深刻な水不足に見舞われる河川流域の人口が39億人(世界人口の40%以上)となる可能性もあるというから、国家にとって水は極めて重要なリソースであることは間違いない。
大自然に育まれた国土、といえばありていに過ぎるかもしれない。しかし、地味ななかにもノルウェーの底力として、たゆまぬ水の流れがそこにあった。■bg